日々雑感 2005年12月

レクサス企画室長 長屋明浩氏からメールが来た!

9月の終わりに、日々雑感に「レクサス全面批判」という文章を書き、不敵にもHPの表紙に「レクサス企画室長の長屋明浩氏に読んでもらいたい」などと書き散らして3ヵ月余、先週仕事をしていたら、見知らぬアドレスの方から「はじめまして」というタイトルのメールが届いた。読んで見ると、なんと。本当にレクサスの企画室長である長屋氏から、メールが届いたのである。物凄く、とっても、びっくりした。

彼の了承を得ないままメール本文をここに転載するのも憚られるので、要約すると、「レクサスは日本発であることを常に意識しているブランドである」「内面だけの価値観に響くことを狙っているのではなく、独自のモダン路線を追究するつもりである」「ハイブリッドは前述の二つの意味においてレクサスを象徴するものである」という趣旨のメールを頂戴した。

知らなかったのだが、長屋氏のフルネームでググると何と5番目に本HPが登場する。インターネットの情報発信力、恐るべし。かつては「インターネットはトイレの落書き」と呼ばれていた時期もあったが、私の書き散らかした文章にわざわざ返信を頂戴できるとは思っていなかったので、本当にびっくりした。かつてはなかなか意見があっても直言することは難しかったのだが、インターネットとGoogleのお陰で不可能が可能になってきた。素晴らしいことである。

折角メールを頂戴したので、中途半端なことを書きたくなく、一生懸命連休中に自分の考えをまとめて長屋氏に返信した。読んでいただけると幸いなのだが。

ちなみにこの後長屋氏から返信を頂戴しました。詳しくはこちら。

アウディマーケティング手法めった切り

今の私の関心事はアルファ147の後継車(後継者?)を探す作業だ。久しぶりに次のクルマを選ぶという作業をしているのだが、何だか自動車業界のマーケティングは間違っていないか?一応「生き馬の目を抜く」といわれる業界で過去10年以上営業という職種でサヴァイブしてきた私から見ておかしいと思われる点を挙げてみたい。

現時点で候補になっているのは以下の3車種。


しかしどのメーカーもウェブページの貧弱さは酷い。この手の車を買う人種は変わりつつあって、既存のエスタブリッシュメントあるいはパソコン音痴のオヤジよりも、LEONを毎月愛読しているような「チョイ悪オヤジ」(かなり寒い響きだが)、もしくは伊勢丹メンズ館で買い物しているような若い世代の割合が今後多数を占めてくると思われる。
彼らはAbercrombieの最新作をウェブ経由で個人輸入する、なんてことは朝飯前である人種で、商品を時間効率よく比較検討するにはインターネットを使うことが最良の方法だということを良く知っている(はずだ)。そういった人種にアピールしようと思っているのであれば、現在の上記メーカーのマーケティング手法はとんでもなく間違っていないか???

ではアウディのマーケティング戦略上疑問を感じたことを述べていくことにする。ここの致命的な点は、「アウディA8を買わなければならないはっきりとした理由」を想定顧客層に訴求できていないことだ。あるいは、彼らのマーケティング戦略に、想定顧客層に食い込むという発想がないのかもしれない。

アウディの固定ファン層、といわれる層は余り多くないはずであることを鑑みると、このメーカーの至上命題はいわゆる「浮動票」をいかに取り込むかに掛かっているはずである。アウディでないと嫌だ、他のブランドでは自分の価値観と異なる、と思ってくれる層をいかに育てていくかがこのブランドのキーとなってくるはずだ。その割にはアウディのマーケティングは万人に対してアピールしようとしていて、結果として誰にもアピールできていない。

A8の値段は、メルセデスのSクラスと余り変わらない。より多くのA8を売るためには、Sクラス、7シリーズ、XJシリーズを検討している顧客を心変わりさせなければならない。アウディというブランドの宿命は、かつてVWと同じチャネルでディストリビュートしたため、欧州でのブランド認知度に比べて日本での高級車としての認識が余りにも低いというディスアドバンテージを背負っていることだ。そんな負の先入観を持っているかもしれない層を取り込むには、あまりにもアピールが足りなさ過ぎる。この問題点を解決しないと、価格で勝負せざるを得なくなり、新車を安売りするとリセールバリューが下がって、消費者が敬遠し、さらに新車を安売りせざるを得ないという悪循環に突入してしまう。そして、もともとアウディが好きだった固定ファンも、リセールバリューが低すぎて経済的に割に合わないためにアウディから離れていってしまう可能性がある。
この悪循環から逃れないと、恐らくアウディというブランドの日本における成功は期待できないであろう。それなのに、このブランドは、現状では「浮動票」とでも言うべき潜在顧客に、「他のブランドではなくアウディのA8を買わなければならないのか」ということを訴求できていないのだ。

アウディがターゲットとする(べき)潜在購買層を、私の独断で勝手に想像してみた。

例えば、アウディA8のハードウェアが上記ターゲット層にアピールする点として、

○ モダンでスポーティーなデザイン(ポリッシュ加工されたホイールや、実は先代Sクラスよりも大きいのに大きさを感じさせない塊感のあるデザイン、上品なフロントビュー、リアエンドのすっきりとした処理など)

○ 機能的な操作系インタフェイス(MMI)

○ 先進性を強く訴求するテクノロジー(オールアルミボディ、クアトロシステム、エアサスペンション)
○ インテリアの高級感(特にパーツの工作精度の高さ、仕上げのよさ)

○ 海外でのクルマとして、またブランドとしての評価の高さ

が挙げられる。これらのポイントでは、明らかにアウディはメルセデスをはじめとする他のブランドと差別化できるだけの優位性がある。これらのSelling Pointをいかに潜在顧客にアピールできるかが鍵になるはずなのに、卓越した商品内容を顧客に伝えるという作業が出来ていないのだ、このメーカーは。

街でほとんどA8が走っていない現状では、潜在購買層がその美しいエクステリアを見るのは既存広告メディア上、あるいはウェブ上でしか有り得ないだろう。そして、アウディのディーラー網を考えると、インターネットの有効活用が、最も効率の良いマーケティング手法のように思われる。その割には、彼らのウェブの内容は、致命的に貧弱なのだ。

メルセデスやジャガーを好む層と比較して、そのターゲット層のIT知能指数はかなり高いと思われるが、そこに全くアピールできていないどころか、彼らの失望さえ買う可能性がある。

例を一つ挙げよう。まず、ウェブ上の画像がどれも小さく、実車をイメージすることが極めて難しい。
A8のデザインは近未来的。ポリッシュ加工されたホイールや、実は先代Sクラスよりも大きいのに大きさを感じさせない塊感のあるデザイン、上品なフロントビュー、リアエンドのすっきりとした処理などは、他のブランドに対して群を抜いており、まさにこれはアウディが他のブランドと差別化を図れる絶好のポイントだ。 しかし、この貧弱なウェブ上の画像では、彼らの最大の売りが全くアピールできていない。自分たちの売りが全くアピールできていないなんて、マーケティングとしてはかなり愚劣な行為ではなかろうか。

例えばエクステリアカラーの選択は、何と2cm x 4cm程度のサムネイルしかない。インテリアカラーの選択も同様。カーコンフィギュレーター的なものは全くなく、購買者が脳内でかなり創造力を逞しくしないと実車をイメージできない。

ディーラーで、好きなエクステリア、インテリア、オプションの組み合わせの車がたまたま見つかる可能性というのは著しく低いわけだから、ウェブ上で合成して消費者にプレゼンテーションしてみせる、というのはとても効果的なマーケティング戦略のように思われるのだが。特にアウディは若くて知性的でモダンな商品を好む層にアピールしなければ他のエスタブリッシュされているブランドに対抗できないはずだ。

因みにAudi USAのHPだと、若干画像が小さいもののカーコンフィギュレーターがあるので、自分が望む車をイメージすることが出来る。
特にこのランクのクルマであれば、カラーバリエーションが豊富にあるために、カーコンフィギュレーターは必須のように思われるのだが。また、シミュレーションにより車両本体よりも利幅の大きいと思われるオプションをより多く販売することが出来るようになるはずなので、利益率にも大きく貢献するようになると思われるのだが。

第二に、アウディのホームページからは、「アウディを買わなければいけないはっきりした理由」が見えてこない。
例えば革新的な技術をアピールするには、ウェブ上の説明が極めてあっさりしすぎている。A8のモデル解説のところには、クアトロシステムがいかに優れたものであるかは全くなく、操作系のシステムがいかに先進的なものであるのかの説明も極めて簡単すぎるほどに簡潔だ。加えて、海外でいかに高い評価を受けているのかについても、トップページで軽く触れられているだけ(それも極めてあっさりと受賞した賞が羅列されているだけ)で、A8のページでもう一度受賞理由の引用なども含めて述べられていてもいいのではないか。ターゲット顧客層は恐らく海外での評価には極めて敏感なはずなので。

以上を総合して、私がAudi Japanのマーケティング責任者だったら行うであろう施策は以下のとおり。

1. 本社のHPとの統一感を優先するのではなく、Audiの商品としての魅力(先進的テクノロジー、美しいエクステリア、高い海外での評価など)を訴求する日本独自のHPの作成
2. 重厚すぎる雰囲気を持つインテリアを、アルミとピアノブラックあるいは良質のチェリーウッドのパネルなどを中心とした超モダンなデザインに代えた日本特別限定車を投入し(たとえは悪いがCrownに対するTianaのように)、メルセデスやBMWなどとの差別化を明確化し、いわゆるニューリッチの人たちをターゲットとすることを宣言する
3. 若い世代に支持される「知的エリート層」を代表する人たちに先ほどの超モダンなインテリア、エクステリアデザインを持つAudi A8を無償で提供し、インタビュー記事とのタイアップ広告を先述した購買層が読む可能性が強い雑誌に掲載する

たぶんAudi本社は「何でこんないいブランドのいい車が日本で売れないのだ」と日本の事情も理解せずに傲慢に思っているのだ。そして欧州、米国でのマーケティングがうまく行っているであろうがために、彼の地での手法をそのまま日本に直輸入すれば車は売れるはずだと考えているのだ。そして、日本の事情を上手くマネジメントに説明できる人材に事欠いているために、日本での施策が繰り返し述べてきたように的外れなものになっているのだ。そして、これまでの過ちを指摘して、リスクをとって(全社的方向から若干外れた)日本独自のマーケティングを行おうという勇気のある社員が、この会社にはまだいないのだと思う。

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