日々雑感 2005年8月

永遠の恋人に史上最強の敵現る

久々に恋におちました。こんなに惚れ込んだのは5年ぶりぐらいです。
今まで、様々な誘惑がありましたが、今回はちょっと抗い難い魅力に惹かれまくっています。
まさに一目惚れ。グラマラスながら引き締まったボディ。知性を強く感じさせるルックス。夢に出てきそうです。

彼女の名は、Aston Martin V8 Vantage。993に永遠の愛を誓ったはずだったのに。

まずENGINE10月号のVantageの特集の写真にノックアウトされました。インテリア。極めて知的な運転席周り。特に鏡面仕上げのピアノブラックのセンターパネルと、アルミ削りだしのように見えるスイッチ類との対比。上質のしぼがついたステアリングの奥に垣間見えるクロノグラフのような、青く妖しく輝く速度計と回転計。
そして足元には白々しく輝く、ゴムの滑り止めがついたABCペダル。超、モードな、イギリスのハンドメイド魂とハイテクノロジーの融合。
エクステリア。引き締まった筋肉の固まりに、うっすらとした衣を着せたかのようなスタイリング。ハンドメイドならではのグラマラスな曲線美。他のどの車とも違う、自己主張の強いルックス。もう、完全にしてやられました。

ポルシェとの対比ですが、まず、全長×全高×全幅(mm)=4,382×1,255×1,866。993C4Sは4,245×1,285×1,795なので、Vantageの方が約14cm長く、約3cm高く、約7cm広い。馬力は385psとカレラの100bp増し。最大トルクは41.9kg@5,500回転に対し、カレラは34.7kg@5,250回転。最近の車はどんどん大きくなっていっていて嫌だな、と思っていたのですが、今時のクルマとしてはそれほどVantageは大きくないのです。それも、ポルシェ993の開発を担当したベルツ氏がAston MartinでVantageの開発に携わったと聞くと納得がいきます。

スタイルも極めてアグレッシブで、どこから見てもAston Martin。他の車とは違うぞ、というオーラが湧き上がっています。贅肉のない、筋肉質な体が、ハンドメイドならではのカーヴェチャーで強調されているところは、ある意味993のリアフェンダーに掛けての造作に近いものがあります。あたかも猫がうずくまっているかのような。また、側面前部のAston Martin伝統のサイドストライク(エアインテークのようなもの)からドアのサイドシルへの周り込みなど、大量生産の車では表現不可能なエクステリアになっています。ここでは分かりにくいのですが、ヘッドライト周りの凝った造りこみも特筆ものです。

しかし問題点が。ディーラーのHPでカタログをダウンロードしたらラゲッジスペースが300ℓで、ゴルフバッグが一つしか入らないとのこと。スポーツカーとしては当たり前かもしれないが、ポルシェに慣れた身からすると結構重大事なのです。ちょうど今引越しを考えていて、なかなか駐車場を2台確保できる家がないことを考えると、最悪ポルシェとアルファを手放し、Vantage1台で賄う、などという極端なことも考えたのですが、ゴルフバッグが一つしか入らないのであれば全くワークしないアイデアです。

それでもVantageの魅力は捨て難く、実車を見られるかと思い飯倉のアトランティックカーズを訪れました。
ショールームにはDB9とVanquishが鎮座していましたが、愛しのVantageは残念ながら展示されていませんでした。この前まで日本に1台来ていたらしいのですが、アジアの他の国にプロモーションに行ってしまったとのこと。今度実車が見られるのは、アトランティックカーズが内見会を行う10月になります、と教えてもらい、連絡先を残してブローシャーを貰って帰りました。
展示車を見ていて、なんか変だなあと思って気づいたのですが、アトランティックカーズの展示車は、恐らくDB9もVanquishも中古車でした。DB9はホイールが擦れてがびがびになっているのが展示してあったし、Vanquishも微妙にシートがへたっていた気がします。どちらもなぜかナンバーがついていたのをプレートで隠してあったし。もしそんなに資金繰りに窮しているのだとすると、手付金を払うのはなかなか根性が要ります。ただ実車をおくだけの在庫が出払ってしまっているだけだといいのですが。
ちなみにアトランティックカーズでのグッドニュースは、実はゴルフバッグが二つ載ることを実際に確認した、らしいことが分かったこと。やはりそれぐらいの実用性がないと。

その後アストンマーティン赤坂に電話して、実車がいつ見られるのか尋ねたら、「今年は東京モーターショーが開催されますので、そちらでご覧になってください」という答えが。昔のスーパーカー小僧が冷やかしで聞いているわけではないのだから、何もそんな答えをしなくても。じゃあ東京モーターショーの展示車のシートに腰掛けさせてくれるのですか、などとつい大人気ないことを言いそうになってしまいましたが、1000万円超の買い物を検討している人を相手にする接客とは到底信じられませんでした。


兎も角、ディーラーの対応には多少の不安を感じながらも、二次元でしか見たことのない彼女を脳内で無理やり三次元にして、どう自分の今の生活と折り合いをつけるか、悩ましく思っています。

(最近の文体と異なりますが、イメージ「恋人に語りかけている」ためなぜか「です、ます」調で書いています。お許しを。)

1億3000万人の日本人にヘビーメタルの魂をぶちこめるか

私はテレビは朝のニュースしか見ないのだが、そんな私が毎週一回、愚妻に命じて必ずハードディスクレコーダーに録画してまで見る番組がある。それは、昨日も恵比寿の極めておしゃれなバーで飲んでいたにもかかわらず、30も半ばに差し掛かろうというのに男三人でハードロックとヘヴィーメタルの境界線という陳腐な議論を大声で戦わせていた私のハートをわしづかみにする、テレビ東京が誇る火曜深夜枠、「ヘビメタさん」である。
ただし大激論を交わした割にはどこが境界線だという結論に達したのか、酔いが醒めると忘れてしまっているところがやはり30半ばに差し掛かっている証拠であろう。
ちなみに番組のコンセプトは「1億3000万人の日本人にヘビーメタルの魂をぶちこむテレビ史上初・ヘビメタ専門バラエティ!」である。
こう書くと、愚妻が旦那のわがままにつき合わされていて、毎週めんどくさいことを命じられているように思われるかもしれないが、必ずしもヘビメタ好きとは限らない愚妻も毎週欠かさず一緒に見ている番組なのだ。(ただし彼女はマーティー・フリードマンよりも早く熊田曜子の鼻歌がLed Zeppelinの「Black Dog」だと分かるほど、私のハードロック英才教育を受けて育っているが。)

これが何故私のハートを掴んで離さないかというと、まず、単純なヘビメタ音楽紹介番組ではなく、ギター弾きにとっては涙が出るほどベタな番組だからである。これまでの音楽番組だと、うなぎ犬のような顔をした老境に差し掛からんかというようなヘビメタ音楽評論家が薀蓄たれまくり、ゲストがよいしょしながら番組進行、といったウルトラヘビメタヲタ向けの感じになるのだが、この番組は違う。
すなわち、これまでのヘビメタ・ハードロック系番組の失敗パターンを分析すると、ビジュアル的にいけていない出演者たちが、一般人に全く受けないコアな内容を延々と話して普通の人にはとってもつまらない番組になるケースが多いような気がする。

この番組では、通常であればヘビメタ小僧を見下す女王様キャラでも違和感のないグラビアアイドル熊田曜子が、(ヘビメタヲタに対立する概念としての)一般人代表として、ヘビメタとハードロックを勉強していく、という基本構成となっている。
また、元Megadethのギタリストであるマーティー・フリードマンが流暢な日本語でボケをかまし、突っ込みを入れながら彼の音楽のセンスとギターの馬鹿テクを、暑苦しく押し付けることもなくさり気無くひけらかすのも本番組の重要な側面である。

大体においてヘビメタは、ビジュアル的にも「気持ち悪い」と思われ、音楽的にも「うるさい」と思われるケースが多いと思われるが、あまり楽器の下手な人はいない。しかし、先入観を捨てると、めちゃくちゃ上手なギタリストが、誰でも聞いたことのある曲を、即興で滅茶苦茶かっこよく弾くと、普通の人でも尊敬の目で見てしまうに違いない。
すなわち、「ヘビメタ=うるさい、気持ち悪い」というネガティブなイメージを、「馬鹿テクギター=超かっこいい」という等式をはさむことによって「ヘビメタ≒超かっこいい」という方向に無理やり持っていこうというのが、うがった見方であるが本番組の趣旨である。

事実1 ヘビメタギタリストは大概ギターが上手い(実例の提示:マーティー・フリードマン、例外:ミック・マーズ(モトリー・クルー)等)

事実2 楽器が上手い人を(ルックスに関わらず)一般の人は通常かっこいいと感じる(実例の提示:野村よっちゃん)

ヘビメタギタリストはかっこいい(例外:枚挙に暇なし)

(多少の論理の飛躍)

ヘビメタかっこいい

一般人に以上の図式のような洗脳を行おうという危険な番組であるが、ぜひ一度見て温かい目で見守ってやってほしい。

プレミアム『きのこの山』と『たけのこの里』

朝のテレビで「秋のお菓子新商品」という特集をやっていた。
秋限定のお菓子がコンビニに出回るらしいが、その中に「プレミアム『きのこの山』と『たけのこの里』」というのがあるとのこと。
普通、プレミアムのお菓子というと、ちょっと普通バージョンのものより値段が張るが素材感や高級感があるもの、というイメージがある。
例えば、
「いちごポッキー」vs「粒いちごポッキー」
「明治アーモンドチョコレート」vs「明治アーモンド粗引きチョコレート」
などなど。

しかし、「プレミアム『きのこの山』と『たけのこの里』」とか聞くと、
生たけのこ入り プレミアム『たけのこの里』」とか、
つぶつぶきのこ入り プレミアム『きのこの山』」
日本産マツタケ入り プレミアム『きのこの山』」
とかじゃないと納得感がない気がする。

昔嘉門達夫が似たようなことを言っていたような気もするが。ちなみに秋限定の『きのこの山』と『たけのこの里』は、栗の味だそうだ。

鮨 丹甫 (明石)

大阪に所用で一泊することになった。折角なのでいつものごとく何か旨いものが食べられないか調べたら、雑誌「Pen」のバックナンバーで瀬戸内海の旨い魚を食わせる鮨屋が明石にあることを発見。明石は大阪から新快速で40分弱かかるが、特に予定もなかったので行ってみることにした。

念のためホテルから電話をいれ、8時過ぎに来訪する旨伝え、淀川花火大会の人ごみをかきわけて大阪駅に向かい、明石を目指す。神戸三宮を越えるのは何年ぶりだろう。日没していたので景色が見えず、感慨にふけることもできず明石に着いた。

明石焼き屋さんを横目で眺めつつ、花火の混雑のせいで8時を少しまわっていたので、急いで店を探す。駅から国道2号線に出て、りそな銀行から商店街を少し歩くと、目指す店「丹甫(たんぽ)」が見つかった。9時閉店だと聞いていたので嫌な予感がしたが、案の定店に辿り着いた時には暖簾がしまわれていた。わざわざ明石まで来てすごすご帰る訳にもいかないので「先ほど電話したものですが」とダメもとで言ってみたら、おかみさんに暖かく迎えていただけた。

店の中は一見さんは恐らく私だけで、皆さん馴染みのお客さんといった様子。店構えは東京の鮨屋にありがちな威圧感を与えるものでなく、普段着て来ても全く違和感がない感じ。

おつまみお願いします、といってまず出てきたのが飴色をした平目。白身、というには色が濃い。見た目だけで言うといつも食べている平目の方が、半透明で旨く見える。しかし、口の中に入れると濃縮された旨味が溢れる。そして弾力がありながらもしっかりとした歯応え。まるで昆布で〆てあるかのようだ。その後アジが出てくるが、これも何となく飴色がかっていて、見た目は冴えない。しかしこれも東京で食べるのとはまったく別物。いつもは新鮮なアジは脂が甘くて舌の上でとろける感じがいいなあ、と思うのだが、脂が旨いというよりも締まった身そのものが濃厚な味を発散している感じ。なんだかいつもとぜんぜん違うので、うれしくなってきた。

「Pen」には「車海老の踊りが旨い」と書いてあったのでお願いしたが、残念なことに売り切れ。板前さんが「車海老もいいんですがしらさ海老の方が旨いですよ」というので、しらさ海老って???と思いながら注文した。初めて食べる。車海老より少し小ぶりで、色は若干青緑色がかった半透明の海老が出てくる。すだちをきゅっと絞って塩を振って食べると、口の中で身が弾けるような新鮮さ。普通の海老は淡白で平板な味だが、しらさ海老は磯の香りが強くて複雑な味がする。やはり知らない土地では知ったかぶらずに素直に人のお勧めを聞くのが一番いい。

こんなもの食べたことない、という話をしているうちに板前さんにも「どうやらこの客は東京から来たらしい」ということがそれとなく知れ、明石近辺で獲れるタネを中心に出してもらった。トリ貝を酢味噌と塩で、生の鯖を生姜醤油で、鯛、あぶらめ(東京でいうあいなめ)、どれも本当においしい。「雲丹もうまいですよ」とおっしゃられるので、雲丹は東京で食べても一緒だろうと思ったら、なんと淡路島で取れる雲丹だそうだ。根室などで獲れる雲丹と違って粒は小さいのだが、味と香りは極めて濃厚だとのこと。期待に胸が膨らんだが、わたしの隣のお客さんが「今日はもう終わってるがな」と板前さんに突っ込む。「まだあったら怒るで。俺も食べてへんのに」と笑いながら言う。どうやら地元の人も食べられないと残念がるほど旨いものらしい。

その後かれい、蝦蛄、焼き穴子、たこを握ってもらった。焼き穴子は東京で食べると脂が落ちてしまっているのが多い中、ふっくら柔らかく、焦げ目が香ばしくてとてもいい。たこも活きだこは終わってしまっていたが、流石有名な明石のたこだけあって、身が締まっていて全く水っぽくない。結局出てくるタネ全てに感心して、板前さんとおかみさんに丁寧に礼を言って辞去した。散々おなか一杯になるまで食べたが、ビール一本しか飲まなかったせいもあってか御代は10,600円。東京では少なくとも2倍の値段は覚悟しなければならないであろう。

ここしばらく伺った店の中では最高に旨かった。最近どこに行ってもおいしさに驚く、ということがなくてつまらないなあ、と思っていたのだが久々に感動。たまにはこういうことがないと。日本で一番旨い魚は築地に入ってくる、というのは必ずしも正しくなく、地元でしか食べられない旨いものがある、という当たり前の事実を再確認した。
ちなみに翌日の昼食は京都清水の洋食「みしな」で牛ロース照り焼き(というよりはステーキですな)を食べたが、これも脳天直撃の旨さ。前にも書いたので繰り返さないが、昨晩食べた六本木ヒルズのミシュラン二つ星の某イタリアンレストランよりも遥かによかった。明石も京都も予定を変更してでもぜひ行ってみてください。

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