走行距離 22,125km
というわけで(前回ご参照)、1週間で車検は終了、土曜日の午前中に車を取りに行くと約束していたので、普段めったに乗ることのない小田急線の各駅停車に乗って、経堂まで辿り着き、そこから徒歩で15分ほどのポルシェセンター世田谷まで出掛けた。
経堂という街は、あまり良く知らないのだが、多分とても普通に昔からある住宅地なのだろう。特に大きなマンションがあって大規模開発された、という感じではなく、駅から東京農大に続く農大通りを歩いていると、とても立派な、築50年はくだらないと思われる和風建築のお宅があったりして、見ているだけで結構楽しい。農大や、馬事公苑があるぐらいなので、昔はおそらく畑しかないとても平和な土地であったのは想像に難くない。そんな昔からの家に混じって、大学生用のアパートやワンルームマンションが点在している。学生さんが自転車に乗って駅に向かっていたり、グラウンドからはクラブ活動中の学生の野太い声が響いていたり、十数年前に良く見聞きしていた光景が、目の前で広がっていた。自分が学生だった頃の記憶と、目の前の光景が、オーバーラップした。
そして、歩きながら強く想ったことは、大したお金を持っていなかった学生時代を考えると、今の自分はなんと贅沢になったのか、ということだった。
学生時代まるで家出するかのごとく芦屋の実家から私を頼って京都に下宿してきた嫁は、非常に少ない額の仕送りしかしてもらえなかったので、冷蔵庫や洗濯機、寒い京都ではなくてはならないコタツなどを買う金がほとんどなかった。まだその頃はバブルが崩壊して日が浅かったので、ありがたいことに学生のバイトでもまだ割がいいのがあったために、二人でバイトしていれば何とかそれなりに惨めではない生活を送ることが出来た。今この文章を書いていて気がついたのだが、「こころが参る」と書いて「惨め」と読む。その頃はお金がないなりに凄く楽しかったので、決して「惨め」ではなかった。
今の自分はポルシェとアルファに乗り、「高い」と文句を言いながら50万円もの車検の費用を払い、若造の癖に鮨やワインの薀蓄を語ったり、とんでもなく身分不相応である。とはいえ死ぬまでこの生活水準が続く保証はどこにもないのだが。しかし経堂から15分ほど歩く間に、今の自分の境遇に感謝をし、しみじみとありがたいことだと想った。
閑話休題。本題の車検の結果は、法定費用66,530円と、ボディカバー22,800円を加えて、合計で569,222円だった。
前回も書いたが、何が特段金がかかったというわけでもなく、全体的に高い。その点について聞いてみたところ、返ってきた返事は「993は全般的に部品代が高いのです。996やボクスターの部品は、我々メカニックが「あれっ」と思うほど安いときがある。けれど、993の部品はそういうわけにはいかないのです」とのことだった。
50万円も払ったのだから、メカニックの方に疑問に感じていることを質問しなければ、と思って、ついでに色々伺った。
まずとても興味があったのは、新車から7年経って、次の車検までに予想されるトラブル。今回も指摘があったが、オイル漏れも発生していた。964を最近まで所有していた同僚からは、「50万円でよかったねえ」と言われたが、また2年後に50万円以上かかったりしたら結構ブルーである。それも暑い日には極力乗らない努力をしたり、ちょいのりしないようにしたり、色々気を使ったのに今回のこの結果である。
「ラバーの経年変化は止めようがなく、圧力のかかるオイルラインのラバーからのオイルにじみ、漏れはどうしようもないのです。金属部分の磨耗は、走行が伸びるとどうしても出てきます。993だからこれに気をつけなければいけないということはありません。ただし、シフトミス、とくにレブリミッターの働かないシフトダウン時のミスだけは絶対に気をつけてください。外気温が高くなる夏場でも、エンジン自体が発生する熱が相当高いので、熱交換効率は当然悪くなりますがあまり気にすることはありません。次にお金のかかる箇所としてはクラッチ板の交換ですが、40万円もかからないと思っておいてください。」
以上のアドバイスを戴いた。前回、松坂氏に戴いたアドバイスと若干違うのは、夏場の外気温上昇にあまり神経質になる必要はないとのくだり。しかし、なんとなく楽観的にはなれない。というのも、昨日は東京はおそらく今年一番の暑さだったのだが、エンジンからの発熱は半端ではなかった。後部座席に置いた荷物はエンジンからの熱で相当暑くなっていたし、奥さんが車を降りたときにリアフェンダーに足を触れたのだがやけどしそうだった。
早速世田谷から自宅まで、元気になった紺ガエル君を運転して帰ったのだが、明らかにエンジンの回転が滑らかになっていた。これはZ3に乗っていたときも感じたのだが、スパークプラグの磨耗は、エンジンフィールにダイレクトに影響するのだ。作業履歴を見ていると、今回が初めてのスパークプラグの交換だったようだ。おそらく電極の角は磨耗して、つるつるになっていたのではないかと思われる。Z3は軽排気量だったこともあって、スパークプラグを交換したらてきめんに早くなった。ポルシェも、アイドリングが安定して、低速トルクが増大したように感じた。しかし、交換するだけで35,000円以上するのだ。でもその価値はあるかもしれない。
もう一つ明らかな違いが見られたのが、ブレーキのタッチ。フルードとホースを交換したのだが、ペダルを踏んだ感触が物凄く良くなった。上手く表現するのは難しいが、喩えて言うとジムのマシーンの負荷を自分の限界寸前のところにしたときにウエイトを上げる感じ。といっても判りにくいか。信頼感がとても高くなった上に、微妙な踏力の変化がフルードを通じてブレンボのシリンダーに伝わっていくような感じを受けた。
クーラーの効きも良くなった気がするが、以前から大して不満はなかった。クラッチの引っ掛かりがあるとの話だったが、確かにスムーズにはなったのだが以前から大して気になっていなかったので、そういわれればそうかもしれないといったようなレベル。パーキングブレーキの効きは良くなったが、これはすぐに甘くなってしまうのは前回の車検時からの経験。シフトレバーのブーツの部分からびびり音がするのが前から気になっていたが、なんだか車検から戻ってきたらさらにひどくなった気がするのだけが、唯一の不満である。
というわけで、無事に、というかなんというか、二年に一度のイベントは終わった。