紺ガエル日記 2001年11月4日 青猫との想い出番外編

走行距離 13,550km

昔、Z3で奥さんと一緒に(その頃はまだ奥さんにはなっていなかったが)山道を走っていて、きれいな小川があったので休憩がてら散歩しようと思って車を止めたことがあった。人里離れた山の中の川はきれいで、わざわざ車を止めてみて正解だと思った。しかし、車に戻ってドアを開けようとキーを差し込んで回してみると、いつもと感触がどうも違う。そのときは???と一瞬感じただけだった。エンジンをかけようとしてみるとうんともすんとも言わない。何度イグニッションキーをひねってもエンジンは目覚めてくれなかった。ドアを開けようとしたときの違和感は、集中ドアロックがワークしていなかったためのものであった。

早速電気系のトラブルを疑って、ライトをつけてみたが、ライトは点灯する。その他の電装系は動くものもある。これはおかしいと思ってヒューズボックスを開けてみたが、異常は認められなかった(後に私はここでミスを犯していたことが判明した)。
いろいろと車と格闘して、結局これは電装系に重大なトラブルが発生したという結論に到達し、JAFに電話しようと思った。携帯を取り出してみると、無情にも圏外との表示。仕方がないので、二人で車を置き去りにしててくてくと民家に電話を借りに山を下り始めた。山奥のため、なかなか家は見つからない。10分歩いても、20分歩いても民家はない。ようやく一軒の民家があったが、そこには人の気配は感じられなかった。

ようやくやっとのことで民家を発見した。大きな昔ながらの民家だった。築100年経っているといわれても全く驚かないほどの、古めかしいおうちだった。大きな庭があり、庭では野菜を作っていた。玄関は開け放たれていたので、「すみません」と挨拶をして、反応を待った。おばさんが中から現れて、怪訝そうな顔をした。私はかくかくしかじかで、と状況を説明し、電話を貸していただけないかとお願いした。おばさんは快諾して、われわれ二人を家の中に通してくれた。家の中は、私の母方の実家の築130年の家と変わらない雰囲気だった。90歳近いと思しきおじいさんが、置物のように座椅子に座っていらっしゃった。会釈をしたが、予想した通り反応は帰ってこなかった。

庭の見える電話の置いてある部屋で、JAFに連絡をして状況を説明し、牽引のできる車で現場まで来てくれるように頼んだ。2時間ほどかかるかもしれない、という答えだった。
おばさんにお礼を述べ、救援が来るまで2時間かかると説明し、辞去しようとしたら、家で待っていなさいと引き止められた。申し訳ないので、と言っても、気にしなくてよいといってくださったので、お言葉に甘えて待たせていただくことにした。
その家の30代と思しき男性(最近私も30になったばかりなので、「おじさん」と書くのには抵抗がある)が、どんな症状で車が止まってしまっているのかを私に尋ねた。私が経緯を説明すると、彼は近所の友人に電話をして誰かすぐに見てくれる人がいないのか聞いてくれた。残念ながら友人の中で車に詳しい人はいなかったのだが、それが判っていながらだめもとでも人助けをしようとしてくださったことに感謝した。

待っている間に、庭を眺めていた。立派な家庭農園であった。大きなナスや、きゅうり、トマトがたわわに実っていた。
すると、おばさんが、「これはうちで取れたものなの」といって、きゅうりともろみを持ってきてくださった。きゅうりをひょんな来客に振舞うというのもなんだか可笑しいが、庭にできていたきゅうりに違いないと思って、またまたご好意に甘えて頂戴した。とてもみずみずしく、味が濃くて甘いきゅうりだった。こんなにきゅうりって美味しかったのかと思った。見知らぬ突然の来客に、ここまで親切にしてくれる気持ちの優しさを思うと、なんだか田舎に遊びに行った時に祖父母の家の近所の人たちがとても優しかった昔の日のことを思い出した。

しばらくしてJAFがやってきて、車を見てくれたのだが、なんのことはない、ヒューズボックスの中でひとつヒューズが切れていたのを私が見過ごしていただけだった。折角の休日で時間を無駄にしてしまったのかもしれないが、親切にして頂いて心はむしろすがすがしかった。丁寧にお礼を述べて辞去した。

田舎の道で、携帯が入らないところに行くと、もう4年近くも前の想い出が突然頭の中によみがえった。

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