紺ガエル日記 2001年9月28日 愛車がラジオ出演!?

走行距離 13,500km

今週は仕事が大変忙しく、死にそうな一週間だった。しかし金曜日なので、もう一頑張りと思って働いていた。すると、午後になって、前の会社の先輩(「しぇんぱい」と発音する)からいきなり怪しいメールが来た。

「どうや?ええバイトがあるで。今日の深夜2時から4時まで911の97年式以前の空冷エンジンの音を録音したい人がおるそうな。謝礼は10万円や。(原文まま)」

とても下品なメールである。そんなうまい話がある訳が無い。たちの悪い冗談が好きな先輩なので、とても慎重になった。けれど、ついむくむくと好奇心が湧いてきてしまったため、つい先輩に電話した。すると、ただででも怪しい話が更に怪しくなった。先輩曰く、この話は先輩行き付けの飲み屋のお姉ちゃんの紹介で、夜中に静かなところで録音をしたいために、千葉の田舎のゴルフ場に夜の2時に来てくれ、というバイトだというのである。

これは危険だ、と直感した。夜中の2時に、人気が無く静かなゴルフ場に愛車に乗って一人のこのこ出かけたら、いきなり襲われて車を盗られるに違いない。そう考えるのが自然だろう。そうでなければ2時間で10万円も払う人がいるのだろうか。
思ったことを先輩に伝えると、先輩は飲み屋のお姉ちゃんに電話してくれた。そしてその依頼主の連絡先の電話番号を貰ってくれた。そして、我々二人は、電話してみて怪しかったら行かなければいい、という結論に達した。暇な我々である。(というのは嘘で、私はその週は一日平均15時間以上働いていたのだが)。

そして私は夕方5時過ぎに電話をかけた。すると、予想以上に丁寧な応対をして頂き、依頼主のKさんとお話することが出来た。Kさん曰く、Kさんの会社は音響制作のGという会社で、ラジオのコマーシャルの音をとるためにポルシェの音を録音したいとのこと。会社の名前を伺って、ウェブ上でチェックしたら、音響で賞を取っていらっしゃるほど有名な会社で、最近までやっていたフジテレビのトレンディドラマ(死語?)の音声も手がけられている会社だった。
そうなると話が俄然面白くなったということで、けれども一人で行くのはやはり身に危険がある可能性もないわけではないので、結局先輩の広尾の家に12時半に迎えに行って二人で行くことにした。

館山道の市原まで、金曜深夜の湾岸線を走っていると、途中で993GT2とおぼしき車に3車線の真ん中を走っていたのに200km以上で左から抜かれた。左から、である。走行車線にはトラックが走っていた。非常に恐ろしかった。
ガソリンが4分の1しかないことを気にしながらも、高速を降りれば入れられると思ったので結構なスピードで市原まで走った。高速を降りてからゴルフ場までおよそ30km。その夜は大変星がきれいな夜で、月もきれいに見えた。田舎の道だった。ガソリンスタンドはどこも閉まっていて、ゴルフ場についたら走行可能距離が80km程度だった。途中、閉まっているガソリンスタンドの前で、われわれは二人立小便をした。腹いせの上での犯行である。現場には2時丁度に到着した。

とってもバブリーなゴルフ場だった。ローマの古代建築か、というような建物だった。われわれは先に到着してしまったため、時間を潰して待っていた。待っていたら本当に来るのかどうかは良く分からなかった。
気温が12度程度しかなかったため、短パンを履いてきた先輩は凍えていた。

ご覧いただければお分かりのように、宮殿のようである。


しばらく経つと、K氏から電話が入り、もうすぐで着くとのこと。先輩は寒いので車の中に閉じこもってしまった。
そして5分後、品川ナンバーの1ボックスカーが到着した。暗いので相手がどんな人なのか、よく見えなかった。先輩と私は、相手がまともな人なのか100%の確信がなかったため、若干緊張していた。

しかし、車から降り立ったK氏は非常に物腰の柔らかい方で、お互い名刺交換をし、自己紹介をした。こんな時間に来ていただいて申し訳ないと、K氏は恐縮していた。そして、仕事の前に、例のバイト料を頂いた。10万円というのは、嘘ではなかった。封筒を開けてあらためはしなかったが…。

そして、今回の依頼の経緯を教えていただいた。なんでも、ゴルフ用品のテーラーメイドという会社のラジオコマーシャルで、「世界の一流品」というテーマで空冷ポルシェの音を使いたいとのこと。97年式以前限定、というのは、ポルシェといえば空冷だということらしい。TBSラジオで放送されるそうである。なるほど。

早速、車のライトだけを頼りに、準備が進んだ。K氏ともう一人の方が、車の中で録音機材、マイクの準備をしている。
準備が整い、いざ録音となった。最初は、イグニッションの音をとりたいということで、下の写真のようにお二方がマイクをエンジンに向け、私がキーを捻ってエンジンをかけた。最初はゆっくりとキーを捻ってしまい、エンジンがかかる前にファンが回る音が入ってしまってとり直しとなった。

その後は私が運転する車に、助手の方が乗り込んで、ゴルフ場の入り口からエントランスまでの結構勾配のきついアプローチを走る車内の音をとることになった。エンジンをかけて、ギアをいれて、スムーズに発進し、ローのままで回転数を保ちながら走るのと、セカンドまで入れて走るという二通りをやった。上りではかなりいい音がするのだが、下りで回転数を上げようとするとかなりのハイスピードコーナリングになってしまう。真っ暗なので結構緊張した。また、上りでセカンドまで入れるとなると、これも結構なスピードである。助手の方の表情は見ることが出来なかったが、結構怖かったのではないかと思う。

その後は通過音を録音するため、マイクの前をいろいろなギアでスピードのバリエーションをつけながら何度も通過したり、発進の音をとるために急発進をやったりと、結構ガソリン消費の高いことをしていたら、走行可能距離が何と40kmまで激減した。
しかし録音するためにきたのだから、エンジンを吹かさない訳にはいかない。最後には、どうやって東京に帰ろうかと、そればかり考えていた。
来る途中に一つだけ24時間営業のファミリーレストランがあったことを思い出し、最悪そこで朝まで過ごせばいいという結論に達した。しかし、朝の4時から3時間もファミレスで時間を潰す、というのはまっとうな社会人のすることではない。田舎の夜中のファミレスって暴走族の溜まり場に違いない、と睡眠不足の頭の中で考えた。

その後は通過音を録音するため、マイクの前をいろいろなギアでスピードのバリエーションをつけながら何度も通過したり、発進の音をとるために急発進をやったりと、結構ガソリン消費の高いことをしていたら、走行可能距離が何と40kmまで激減した。
しかし録音するためにきたのだから、エンジンを吹かさない訳にはいかない。最後には、どうやって東京に帰ろうかと、そればかり考えていた。
来る途中に一つだけ24時間営業のファミリーレストランがあったことを思い出し、最悪そこで朝まで過ごせばいいという結論に達した。しかし、朝の4時から3時間もファミレスで時間を潰す、というのはまっとうな社会人のすることではない。田舎の夜中のファミレスって暴走族の溜まり場に違いない、と睡眠不足の頭の中で考えた。

その後、ドアの開閉音を録音した。私がポルシェっていいなあ、と思う瞬間は、ドアの閉まる音である。初めて993ターボに乗せてもらったとき、ドアが「カキーン」という音とともに閉まったことにびっくりした。金属バットで硬球を打ったときのような高周波の残響とともにドアが閉まる、あの音である。かつてポルシェの雑誌を読んでいたら、ミツワ自動車の昔のポルシェの広告で、「まるで金庫のよう」という表現があったことを発見したが、まさに金庫のような剛性感の高い音だ。996ではこの音はしない。しかし剛性は996の方がより高いらしい。ドアの閉まる音なんてどうでもいいといえばどうでもいいのだが、数字に現れない車のよさ、というのはこういうところにあるのだな、と乗るたびに思う。

そしてクラクションの音をとり、およそ1時間ほどで全ての録音が終了した。朝の3時過ぎだった。お疲れ様です、と挨拶をし、K氏が以前ポルシェに乗っていた話をし、また機会があったら協力させていただきます、とお話した。空冷ポルシェをレンタルする会社はないのですか、ということを聞いてみたが、見つからないそうだ。オーナーが人に運転させることを極端に嫌がる車なので、借り出すことも難しく、オーナーに運転してもらって録音しなければならず、夜中にほいほいゴルフ場に来る人もそんなにいないので、10諭吉も払うことにしたそうだ。

ガソリンがないので帰れるのか分かりませんが最悪ファミレスで徹夜します、と言い残してわれわれは失礼した。驚くべきことに、K氏と助手氏はさらに残ってゴルフ場でティーショットの音を録音されるという。本当にお疲れ様である。
そして眠そうな先輩を乗せて、私はゴルフ場を後にした。どうやって航続距離を伸ばそうかということばかり考えていた。以前読んだ雑誌で、ポルシェで運転中にガソリンがなくなってきたため超低回転でしばらく走っていたらオイルがエンジンに回らず、エンジンを壊してしまったという記事を読んだことが思い出され、回転数は3千回転を下回らないようにしながら田舎の国道を走った。幸いなことに交通量は非常に少なく、信号に引っかかることもなく、超省エネ運転をした。途中で、24時間営業のファミレスを発見した。その時点で走行可能距離は60km程度まで回復していた。ここで休むか、インターチェンジ付近であるか分からないガソリンスタンドを探すか。見つからなければ車で朝まで待たなければならない。先輩は隣でグーグー寝ている。決断をしなければならなかったが、結局早く家に帰りたいこともあってそのまま走りつづけることにした。

夜の国道をひた走ったが、やはりインターチェンジまで一つもガソリンスタンドはなかった。インターを行き過ぎて、しばらく走ったが、依然見つからない。万事休すか、と思った。さらにしばらく走ったら、コンビニがあった。あそこに行けば何とかなるかもしれない、と考え、駐車場に車をつけた。朝4時過ぎのコンビニの駐車場には、うんこずわりをしてカップラーメンを食べている日本の将来を支えるべき若者がたくさんいた。コンビニの店員に、24時間営業のガソリンスタンドがこの近くにあるか、と聞いた。その店員は、予想とは異なり、一瞬にして返事をくれた。「この先10分程度走ればあります」と彼は断言した。疲れた頭で、自分の取った決断は正しかったことに神に感謝した。彼の力強い言葉どおり、市原インターを通り過ぎて16号線に交わる交差点の角に、ガソリンスタンドは明るいオレンジの光をたたえながらひっそりと立っていた。正直、ありがたかった。

腹を空かせた私の愛車は、60.5リットルものガソリンを飲み干し、再び元気を取り戻した。先ほどまでの鬱憤を晴らすため、これでもか、というようにエンジンをぶん回し、一路東京を目指した。当然のことながら、土曜の早朝の館山道、湾岸線はとても空いていた。しかし、走りなれた道ではないため、交通安全運動週間中ということもあって、べらぼうなスピードは出せなかったのだが。

都内に入り、辰巳ジャンクションから9号深川線に入って箱崎までのコーナリングを楽しもうと思っていたら、後ろから明らかにいじってあるプレリュードに煽られた。いつも煽られたときにするように、譲ってやって後ろからずっとついていった。先輩が寝ていることをいいことに、かなり横Gのかかる運転をした。荷重移動を意識しながら、結構なコーナーをいくつかクリアした。しかしスキール音を立てるほどのこともなく、プレリュードのお尻について走っているうちに、環状線の合流までついてしまった。少しばかりスリリングだったのはそこまでで、あとは平和に広尾のマンションまで先輩を送り届けた。高速代を彼が全て払ってくれたし、この話もそもそも彼が教えてくれなければなかった話なので、バイト代の中から3諭吉を渡した。先輩はそんなにいらない、と固辞したが、無理やり3諭吉を握らせて、まだ夜の続きの人がたくさんいる早朝の表参道を抜けて、家に向かった。

しばらくして、K氏からメールが届いた。

先日は有難う御座いました。
無事にお帰りになれたようで ほっとしました。
本日無事に録音(ナレーション)も録り終わり 納品できました。
オンエア―は 10月7日から約3ヶ月 TBSラジオで23:00〜23:30 の放送予定です。
今回はホンとに急な話で、また 変な話に付き合っていただき 感謝感激です。 
また何かあったときには相談に乗ってください
ではまた。。。。。。


という内容だった。

ということなので、もし興味がある方は、日曜日の夜11時から、TBSラジオを聞いてみてください。

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