吉村明彦さんが書かれた
「ナローポルシェの憂鬱」を購入、多忙にかまけて一週間ほど置きっぱなしにしていたのだが、昨晩から酒のともに読み始め、今朝完読した(徹夜したわけでもなく、そこまで大変な本ではないので念のため)。73年の911を買った吉村さんが、如何にナローポルシェと「折り合い」、速さだけを追求するのではなく癖のある車の癖をも楽しみに変えていき、自分だけのポルシェとの生活の楽しみを見つけていく、という素敵な本だった。
恐らくいわゆる「ポルシェ乗り」の人が読むとつまらなく思う方もいらっしゃると思うのだが、肩の力が入ったところとそうでないところの同居のバランス感が不思議な読了感を誘った。
何よりも、肩の力を抜いて、「いきなりは最初から何でも出来ない」という当たり前だが人にはなかなか言えないことをはっきりといっていることが凄い事だ。ポルシェに乗っている人は大概薀蓄を熱く語って、知らないことを知らないというのが何故だか恥ずかしいことのようになっている。さらにそれがナローポルシェのオーナーだときっと964以降の近代化された後のポルシェ乗りたちよりも濃い世界が展開されているに違いない(あくまでも想像に過ぎないが)。私もただの日和ったポルシェ乗りだが、何となくポルシェの薀蓄を語らねばならないような強迫観念を持ってしまうときもある。このようなHPを立ち上げていることさえ、そういった強迫観念が為せる業と言えなくもない。しかし吉村さんは、自分の運転技術が未熟であったこと、それによってポルシェの「神様」達から様々な忠告や「教え」を受けたこと、しかしその忠告や「教え」は、門外の者を軽視軽蔑し排除するためのものではなく、彼らがポルシェという精密機械とその成り立ちを理解し尊敬しているからこそ全てのポルシェ乗りに同じように理解と尊敬を求めているという事実をてらいなく文章にしている。世の中の勘違いした人たちの唯我独尊ぶりにたまに辟易することがあるが、それとは明らかに違う世界がそこにある、ということが淡々と、たまに熱く、記されている。
私は993からポルシェの世界に入ったので、文化的なポルシェしか知らない。この本は、車の構造、空冷のエンジンに対する理解、エンジン特性と走りとの関係といった近代的な車では考えなくて良くなっていることに対して再考する良い機会だった。吉村さんの人生というものに対するアティテュードにも人生の先輩の言葉として感じ入るところがあったことを付け加えておく。「前が空いたら踏め!」というのは極めて正しいことだ。