先週末は東京でも大雪だった。金曜深夜から雪が降り始め、土曜日は大雪で、町はトラックとタクシー、スタッドレスを履いた車だけで非常に閑散だった。
しかし日曜日はきれいに晴れ上がって、若干寒かったものの日差しがやさしい一日だった。
そんな日曜日の午後、愚妻と新宿に買い物に出かけようとしていた。
徒歩で出かけ、家の近所で信号を待っていたら、黒のカマロのコンバーチブルがオープントップで目の前を行過ぎた。
私は、青猫ちゃんを手放したばかりで、「今日のような日にオープンで出かけられるなんてうらやましい」と未練がましく思った。
雪が残る中では、紺ガエルでは出かけられない。そのフラストレーションもあって、余計カマロのコンバーチブルがうらやましかった。
しかし、隣で信号待ちしていた若いカップルの兄ちゃんが、
「バカだよな、こんな寒い日にオープンにするなんて。カッコつけて。」
と連れの姉ちゃんにデカイ声で言っていたのが聞こえた。
オープンで走る一番いい季節は冬だ。これは私の結論である。青猫ちゃんにはシートヒーターがついていて、ヒーターは最強にすれば真冬でもサイドウインドー全開でも汗ばむくらいだった。ダウンジャケットでも着れば、どんなに外気が寒くても快適である。頭寒足熱、まるで走るコタツの中にいるようで、極楽である。
くわえて、関東、特に東京では冬は晴天の日が多いということである。そして空気が澄んでいるため、春や秋に比べて景色が美しく見える。
カマロの兄ちゃんもさぞかし気持ちがよかったであろう。私は本当にうらやましく思った。そして、オープンカーの快感を知らないでカマロをけちょんけちょんに言った若い兄ちゃんを馬鹿にする気にもならず、むしろ「彼はまだオープンカーに乗ったことがないのだ」と哀れにすら感じた。そして、吐き捨てるようにバカ呼ばわりした兄ちゃんは、おそらく本当はうらやましかったに違いない、と思った。
オープンで走るのは冬が最高だといったが、桜が満開の大井川上流を、オープンにして延々と桜並木を眺めながら走った春も最高だった。風が吹くと、車の中に桜の花びらが落ちてくる。どんなに渋滞しても、桜並木の下だと気にならないどころか、むしろ楽しめた。首都高の渋滞とは当然のことながらまったく異なる。
また、夏の夜に、オープンにして花火を眺めるというのも、オープンならではの醍醐味だった。夏は昼間はオープンにする気にはなれない。紫外線も強い。一度6月に実家のある宝塚まで東京からオープンで出かけた。夏前だったので油断していたのだが、上半身が真っ赤になるまで日焼けした。一度冬に東京から大阪までオープンで行ったこともあったが、関が原で雪が降り始めるような季節だったにもかかわらず、帰ってきてみると顔に日焼けでサングラスのあとが残っていた。あなどれじ、紫外線。恐るべし、オゾンホール。
機会があったら、ぜひ一度はコンバーチブルに乗ってほしい。たとえば、夏に北海道に旅行に行ってレンタカーでロードスターを借りてみてほしい。フロントガラス、サイドウインドー越しにしか見えなかった景色と、屋根があいて見える景色とではまったく違うということが判るだろう。夏の北海道の空に、飛行機雲だって見えてしまう。美しい景色だけではなく、風の触感や草のにおいなど、いろんな感じ方ができる。
ただし、いいことばかりではないのも事実である。峠の一本道でトラックが黒煙を上げて上り坂を上がるのを後ろにつけていたりすると、排気ガスを吸わされた挙句、食事のときに顔をおしぼりで拭いたら真っ黒、なんてこともある。最近はあまりいないが、バキュームカーでもいようものなら臭くてたまらぬ。ガソリンを入れるときも結構ガソリン臭い。
また、風の巻き込みも曲者だ。いつも気をつけていたのだが、一度だけやってしまった失敗は、首都高の回数券をちゃんとしまったつもりだったのに、走行中に風で飛ばしてしまったことである。首都高料金所で回数券をちぎって渡したら、特定区間だったので300円で済み、回数券を返してもらって現金で払った。その回数券をちゃんとサイドポケットにしまったつもりだったのに、3速に入れたぐらいのタイミングで回数券が後ろへと消えていった。本当に飛んでいってしまえばまだあきらめもつくのだが、座席の後ろに引っかかってまだ車内に残っている。700円が惜しいので手を伸ばして取ろうとしたが、3速でレッドゾーンに入りそうになるし、ハンドルさばきも怪しくなって非常に危険だし、泣く泣くあきらめた。しかし、高速を降りたらあきらめたはずの回数券が車内になんと残っていた。結構驚いた記憶がある。
今度は、いつオープンにして乗れるのだろうか。360モデナはデザイン的にあまり好きではないが、雑誌でスパイダーの写真を見たときは、脳天に衝撃を受けたようだった。かっこよすぎる。跳ね馬のエンジン音を聴きながら、風に乗って走るのはどんなに気持ちのいいことだろう。360スパイダーに乗れる日が来るとは思わないが、あれはひとつの究極の形であろう。